リニューアルへの営業力強化
2008(平成20)年のリーマンショックがもたらした建設業界の不況は容易に収拾へ向かわず、2011(平成23)年頃まで尾を引いた。マサルは2009年度・第54期のスローガンを「一丸となって不況を乗り切る」と定めた。「思う存分、個々の力を発揮せよ!」「徹底して無駄を省け! 作った金は人を活かすために使え!」「生産性向上のためにあらゆる手段を考えよ!」――。守りに入る標語ではなかった。不況を、攻めるための号令である。
――元請を目指して直接提案
2010(平成22)年、マサルは新たな営業戦略へ踏み出した。元請である「ゼネコンの先」へ出る。つまり、建物所有者や管理会社、デベロッパーなどの施主へ、直接営業を行う体制の強化だった。
そして、設置されたのが、同年の「TMR(タワーマンションリニューアル)推進室」だった。建物の改装を軸に、既存建築物の維持保全・改修市場を施主から直接受注していくための組織である。高度経済成長期からバブル期にかけて建設された建物群はこの頃、本格的な改修時代へ入り始めた。建物を〝壊して建て替える〟のではなく、〝長く使い続ける〟という考え方が広がりつつあった。漏水対策、外壁保全、美観維持など建物を長寿命化する、1979年から始めたリニューアル工事に、マサルの技術は大きな役割を果たせる可能性を持っていた。しかしその価値は、施主へ直接伝えなければ届かない。
「TMR推進室」は単なる営業部門ではなく、ゼネコンの下請けという立場から卒業するためのまったく異なるスタイルであった。
翌2011年、「準備室」は「開発営業部」として正式に発足した。さらに翌年には「たてもの改装部」として組織を拡大していき、売上げを伸ばしていった。
ここで大きな意味を持ったのが、設備工事分野への対応である。建物改修において、施主が求めるのは建築リニューアルだけではない。空調、給排水、電気設備を含めた建物全体を一括で相談できる会社へのニーズが高まっていた。
施主への直接営業という分野での新規参入業者が、何も武器を持たずにライバル会社に勝てるはずがない。同2011年、マサルは設備会社「塩谷商会」(のちに株式会社マサルファシリティーズへ社名変更)をM&Aによりグループ化した。「建物全体を改修できる会社」へ進化するための、戦略的な一手であった。設備工事機能を取り込むことで、建築の改修にとどまらず、建物改修全体へと範囲を広げる。施主に対して、より包括的な営業を行える体制が整えられた。
この時期の営業改革には、もうひとつ特徴があった。「技術者が営業にも関わる」という文化である。マサルでは従来から、現場経験を持つ社員が顧客対応へ関与するケースが多かった。単なる価格交渉ではなく、「なぜこの工法が必要か」「どう維持管理すべきか」を技術的視点から説明できる強みがあったからである。それは、創業期にも数々の逸話が残る〝営業の現場主義〟につながるものであった。
施工品質で選ばれる時代から、「提案力」でも選ばれる時代へ——。会社は確実に、新たな営業スタイルへと舵を切りはじめていた。そして、2025(令和7)年、「たてもの改装部」の年間売上は約16億円となっている。