不況下でも止めない技術開発②
技術開発は、単なる機械の導入にとどまらなかった。
1996(平成8)年、マサルは新規開発事業部を発展的に解消し、防水&建材事業部を発足させた。狙いは、それ以前から携わってきた広範な防水分野の事業を、さらに拡大することだった。同年、この防水&建材事業部を通じて、マサルは「逆打ちグラウト工法」の現場へ本格参入を果たす。
――逆打ちグラウト工法とDPG特殊ゴム
逆打ち工法とは、建築物の地下が深層化するなか、1階の床梁を先に施工し、その後、順次掘削しながら地下躯体を構築していく工法である。天候の影響を受けにくく工程を安定させやすいことから、当時、都市部の地下工事などで急速に普及していた。この工法では、先行して構築した躯体と、後から施工する地下躯体との間にコンクリートの打継ぎ部が生じる。マサルは、そこにセメント系無収縮グラウト材を充填する技術を確立していた。その技術力を背景に、JR東日本本社ビル、駒込科研製薬跡地再開発整備工事、大崎駅東口再開発工事などの大型現場を次々に受注していったのである。

逆打グラウト工事 フッコーホース取付

逆打ち継ぎ施工法の概要図
都市再開発が高度化するなか、シーリング防水会社に求められる役割も変化していた。単なる「仕上げ工事」ではなく、建築構造そのものの性能や耐久性を支える存在へ。技術領域は着実に広がっていた。
さらにマサルは1997(平成9)年、DPG(Dot Point Glazing)ガラススクリーン目地用特殊ゴムを開発する。DPGガラススクリーンは、ガラスを金物で点支持することでサッシ枠を極力なくし、透明感の高い大きなガラス面を実現する工法である。

DPGガラスクリーン
1998(平成10)年、マサルは新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)外装のシーリング施工を請け負った。この建物の外装にはDPGガラススクリーンが採用され、その一部は内外二重のガラス面を持つダブルスキン構法となっていた。ダブルスキン内部の施工スペースは約400㎜と狭く、その内部側から両面のガラス目地にシーリング材を施工する従来の方法では、作業性が悪いうえ、ガラス面を汚すおそれもあった。
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新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)
そこで採用されたのが、前年に開発したDPGガラススクリーン目地用特殊ゴムである。特殊な断面形状を持つ長尺シリコーンゴムガスケットを、狭いダブルスキンの内部側からガラスの突き合わせ目地に装着し、内外それぞれのガラスの外部側からシリコーンシーリング材を充填した。これにより内部側からのシーリング施工がなくなり、ガラス面を美しく保つことに成功した。

ガラス目地用特殊ゴム+シーリング納り
建物全体を卵状の曲面で囲み、その外壁にDPGガラススクリーン(セントラル硝子)が採用されている。
そのガラススクリーンの目地にマサルが開発した特殊ゴムを使用している。
2000(平成12)年に竣工したMS原宿ビル(のちのセコム本社ビル)では、この特殊ゴムをさらに改良し、新たな施工方法を開発した。ガスケットを内部側からガラスの突き合わせ目地を通して外部側へ出し、専用の道具を使って内部側へ引き寄せ、所定の位置に納める。道具でつまんだ余分な部分を切り取り、ガスケットを目地内に残した状態で、内部側からシリコーンシーリング材を打設する工法である。これによって外部側からの施工が不要となり、施工効率はさらに向上した。(MS原宿、NTT Docomo品川ビル)
なお、りゅーとぴあで採用された特殊ゴムを用いる「ガラスウォール付合せ目地のシーリング工法」は、1998年にマサルと内木ガラス商会が共同で特許を出願し、2007(平成19)年に特許登録されている。
1990年代後半、透明感の高いガラスファサード(建物の外観)が広がるなど、日本の都市景観は大きく変わり始めていた。建築デザインが高度化・多様化するなかで、シーリング防水技術にも新たな性能が求められていく。マサルの技術開発は時代の変化に応えながら、新たな施工領域を切り拓いていった。
プライマーの性能が向上しても、建物そのものの熱伸縮をなくすことはできない。黒などの濃色パネルは日射による温度変化が大きく、パネルが長くなるほど伸縮量も大きくなる。新しく開発されたプライマーを使っても、パネルが7mを超える長尺になると対応が難しいケースがある。季節でいえば、夏よりも春や秋のほうが一日の温度差が大きく、パネルの膨張・収縮量も大きくなる。
野口技術本部長は、接着性の強さではシリコーン系シーリング材の性能を高く評価する。ただシリコーン系は、周囲の外壁材などを汚染する撥水汚染問題がある。そのため、サッシジョイントや外壁パネルなどでは敬遠されることが多くある。