技能社員制度の復活
2010年代半ば、高度経済成長期から日本の建設現場を支えた団塊世代の技能者が、相次いで引退期を迎えた。20年以上前から続く若年層の建設業離れも収まる気配がなく、現場の技能者不足は年を追うごとに深刻さを増していた。
――次世代へつなぐ現場の技術
技能者不足は、現場の技術継承の危機だった。
その危機を乗り越え、技術を次の世代へ引き継ぐため、2014(平成26)年、マサルは「技能社員制度」を復活させた。
マサルが「技能社員制度」を初めて導入したのは、1991(平成3)年のこと。未経験の若者を社員として雇用し、ゼロから技能者へ育て上げる仕組みだった。ピーク時には30 名の若手技能社員が在籍したが、バブル崩壊後の不況で雇用を維持できず、制度は幕を閉じる。この経験を踏まえ、今回は対象を変えた。「主任技術者」の要件を満たすベテラン技能者を、技能社員として迎えることにしたのである。
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技能講習(学科)
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技能講習(実技)
新たに人を雇えば、人件費は増える。しかし今回対象としたベテランたちは、もともと外注費として原価に含まれる協力会社の事業主であったり、協力会社の社員であったりした。会社全体で見れば新たな負担にはならず、経験豊かな彼らを社員に迎えることでむしろ、取引先とより厚い信頼関係を築くことができた。
とはいえ、それぞれに立場があり、雇用交渉は難航した。一人ひとりと粘り強く会話を重ね、採用にこぎ着けていったのである。しかも縁とは不思議なもので、最初に技能社員となったのは、1991年の1期生だった。
制度復活の背景には、現場を取り巻く環境の変化もあった。2014(平成26)年、いわゆる「担い手三法」の改正により、担い手の中長期的な育成・確保が国の基本方針として明確に位置づけられる。建設業は、現場を担う人材をどう育てるかを業界全体で問われる時代に入っていた。品質確保への要求も強まり、現場に配置が義務付けられている「主任技術者」の存在は一層重みを増していく。しかし現実には有資格者が足りておらず、人材の確保と育成は業界共通の課題となっていた。マサルは、その人材を協力会社の中に見出したのである。
担い手三法
建設業法、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)、公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)を総称していう。「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」の推進を目的とし、2014(平成26)に第二次、2024年(令和6年)に第三次の改正が行われた。
加えて、現場書類の作成や安全管理、出来高管理など、施工以外の業務負担も年々増していた。なかでも出来高の集計や請求処理は複雑化し、総合職社員だけでは対応しきれない場面も増えていた。
そこでマサルは、採用したベテラン技能社員を「主任技術者」や「総合職補佐役」として現場に配置した。現場管理、施工品質の確認、安全管理。そして施工数量の確認、出来高の整理、請求関連のサポートまでを担ってもらう。ベテランたちは現場を安定させ、施工に集中できる環境を整える存在として大きな役割を果たしていった。
そして、ベテラン技能社員にはもうひとつ、大きな仕事があった。入社間もない若手社員の育成である。ベテラン技能社員は若手社員を伴って日々の現場に立ち、「なぜこの施工をするのか」「どこを見るべきか」「どう判断するのか」、自らの経験を言葉で伝えた。こうして、現場の知識を未来へ伝承する教育環境が整っていった。
当時、2020(令和2)年開催予定の東京オリンピック需要や都市再開発により、建設需要は回復基調へ向かっていた。その一方で、人材不足がさらに深刻化するのは明らかだった。〝人を育てる会社〟こそ強くなる時代が来ていた。重要なのは現場を増やすことではなく、現場を支えられる人材をどう残すか――マサルは、そう時代を読んでいたのである。