財政基盤の安定を目指す
「失われた10年」のさなかにあった2000年度・第45期、マサルの利益剰余金は約5億円まで減少し、反対に有利子負債は約30億円へと膨れ上がっていた。その後、「無駄をなくす運動」をはじめとする懸命な企業努力により、2007年度・第52期には利益剰余金は約7億円、有利子負債は約18億円にまで回復する。
――持続可能な会社」への変身
リーマンショック時の不況で、マサルは2008年度・第53期こそ固定資産の減損処理など赤字に転落するが、続く第54~56期は、経営企画室を中心とした経費削減、新築工事の選別受注の徹底、リニューアル工事への営業強化、新築事業部とリニューアル事業部の統合といった施策により、黒字を維持することができたのである。
そして2012(平成24)年、マサルは「財務健全化方針」をあらためて打ち出し、「強い財務基盤を持つ会社」への転換を目指した。その中核となった施策のひとつが、元請のゼネコンなどに働きかけた「注文書管理」と「出来高払い」の徹底だった。
マサルの有利子負債が増える最大の要因は、新築工事部門にあった。新築工事では、契約後に着工してから追加・変更が非常に多く発生する。そのため工事が終わる頃には、あらかじめ見積もった材料や人員の数量が倍近くに膨らむケースも珍しくなかった。ところが、その追加分の精算は工事完了まで受けられず、予算のない現場では支払いも後回しにされる。一方で、材料費や人件費といった原価は工事期間中ずっと発生し続ける。
原価は先に出ていき、回収は最後、場合によっては何年も先になる。これが財務内容を圧迫する大きな原因だった。現場数が増えるほど、たとえ利益が出ていても資金繰りの負担は重くなる。
だからこそマサルは、「契約」と「回収」の管理を徹底した。月1回の内部監査で現場ごとに進捗を確認し、施工済み部分の早期請求・回収を徹底させることで、資金循環の改善を図っていった。
またこの頃には、利益重視型の経営が社内に定着していた。売上規模を追うのではなく、「利益を確保できる案件」を重視する。無理な低価格受注を避け、施工品質と採算性のバランスを取る方向へ、経営の舵は切られていた。
「利益を残すこと」「資金を守ること」は、現場レベルでも共有される。営業も、施工も、管理部門も、〝会社全体で財務を守る〟という意識へと変わっていた。加えて、「無駄をなくす運動」以来受け継がれてきた原価改善の意識も、会社全体に浸透していた。小さなコスト改善を積み重ねる。現場単位で収益管理を徹底する。
こうした取り組みの結果、2012年度・第57期からの4年間で、マサルの財務状態は大きく改善していく。有利子負債は着実に減少し、借入依存度も低下、財務安全性は向上していった。
そして2016年度・第61期、ついに有利子負債残高が利益剰余金を下回る水準に到達する。バブル崩壊以降、倒産リスクを背負いながら、全員で取り組んできたことが財務体制の改善につながった。「安心企業」の実現である。
もちろん、借入をゼロにすること自体が目的だったわけではない。重要なのは「危機に耐えられる会社」になることだった。景気変動の影響を受けやすい建設市場だからこそ、不況時にも揺るがない財務基盤が必要になる。
マサルはようやく、「持続可能な会社」へと変わろうとしていた。
苅谷純・現会長が経営者として、最も苦しかった決断は何だったか。
社長就任から3~4年後、当時マサルの重要な取引先について、新築工事の営業を中止すると決めた時だという。
周囲からは猛反対を受けた。しかしその顧客は、赤字ではないものの長年にわたって利益が上がらず、担当者だけが苦労を強いられる取引先でもあった。
中止を決めた年度、売上は結果的に落ち込んだ。だが利益面では、大幅な改善が見られたのである。