改善と改革
「無駄をなくす運動」を始めると、社員からは1か月の間に約200件もの提案が集まった。運動の成功は、これらの提案がなければあり得なかった。これを受けて2003(平成15)年、マサルは社員・協力会社の誰もが提案できる「提案制度」を開始した。「全員参加型の経営を続け、全員で収入を増やそう」という意思表示だった。
――「考える組織」への転換
改善提案の制度自体は多くの企業に存在するが、出して終わりになってしまうケースも多い。マサルが重視したのは、「提案をどう改善につなげるか」である。重要なのは、スピードだった。
そこで導入されたのが、経営陣が現場を回る「現場監査」と、月に1回社内各部署で行われる「内部監査」だった。提案制度などで浮かび上がる課題を「現場監査」や「内部監査」で洗い出して共有し、その場で改善策を検討する。後に改善策の成果を確認し、さらなる改善策を協議する。Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)——社内版のPDCAサイクルを高速回転させる仕組みだった。この循環を現場や部署単位で、細かく積み重ねていく。
例えば、施工現場で材料ロスが発生した場合、単に「注意する」だけで終わらせない。原因を分析し、搬入方法や保管方法、施工手順そのものを見直す。そして翌月の監査で、その問題が本当に改善したかを確認する。不具合を〝精神論〟で片付けず、仕組みと紐づけて根本的に改善する。そこに、マサルの改革の特徴があった。
また、取得したISO9001(品質マネジメントシステムの国際規格)の活用方法にも、独自の考えがあった。2000年前後、ISO認証を〝飾り〟のように取得する企業も少なくなかった。しかしマサルは、ISOが定める品質管理や業務フローを文書化し、それを現場改善へ結びつけた。ルールを作ることが目的ではなく、「同じミスを繰り返さないための仕組み」として活用することを重視したのである。施工品質のばらつきは長期的な不具合へ直結する。だからこそ、施工記録や検査体制、情報共有の標準化は大きな意味を持っていた。
ISO9001
国際標準化機構(ISO)によって策定された品質マネジメントシステムに関する規格(ISO9000シリーズの一つ)。製品やサービスの品質を向上させるためのフレームワークを提供し、顧客満足度の向上を目指す。1990年代前半から、公共工事改革や国際化に伴い企業の関心が高まり、大手ゼネコンが相次いで取得。1990年代後半には取得する企業が急増。2004(平成16)年9月、ISO9001認証取得を活用した公共工事の取り扱い方針を定めた。
ISOの要求事項には、顧客の満足度を継続的に把握することも含まれている。マサルはゼネコンなどの元請に「顧客満足度アンケート」を依頼し、社員への不満、品質・安全、現場の問題点を可視化しようとした。しかし、約100現場にアンケートを依頼したにもかかわらず、2003年度が16件、2004年度が18件と、ほとんど回収できなかった。そこで2005 年度は、アンケートの提出と検査実施を、工事の保証書に検印を押す条件とした。アンケートを現場運営の流れの中へ組み込み、必ず回答が集まるようにしたのである。
アンケートによって浮かび上がったのは、顧客が何を重視しているか、だった。安全、品質、技術力、提案力、社員の対応。経営陣には見えていなかった課題が、明らかになっていった。
そして、その声を放置せず改善策を検討し、次の現場へと展開する。ここで得られた情報は営業面でも重要な意味をもっていた。顧客が求めていることが可視化され、それに最大限応える為の道筋が明確になった。また、対外的な効果だけではなく、その積み重ねによって、「会社が現場の声を聞いている」という実感が社内へ広がっていった。
改革とは、一度の大きな変化ではない。小さな改善を、止めずに積み重ねることである。長い不況の中で、マサルは「考える組織」へ変わろうとしていた。そしてその改革は、単なる業績回復策ではなく、次の時代を生き抜く企業体質づくりでもあった。